言葉によらない「伝達」
wowowで先週放映された、濱口竜介監督作品『ドライブ・マイ・カー』(2021)を録画で観てみました。村上春樹の原作本(『女のいない男たち』、文春文庫、2014)も読んでみました。村上春樹は総じて短編のほうが面白いと、個人的には思っています(いわゆるハルキストではありません)。この原作本も短編集で、ある種のリアルと寓話的なものとの境目を行き来するかのような、独特な空気感を感じさせます。
で、映画のほうは、同名短編を長尺(3時間)にするために、原作本のほかの作品に出てくるエピソードや語られる物語を適度に取り込んでいます。また、全体的な骨格として、広島の演劇祭でのワークショップが設定されていて、そこでチェーホフの『ワーニャ伯父さん』の多言語混在上演プロジェクトが進行していきます。『ワーニャ伯父さん』は人生をめぐる怨嗟が切々と語られるような暗い作品ですが、西島秀俊が演じる主人公・演出家の家福は、あえて抑揚のない、棒読みのようなテキストの再現にこだわります。西島本人のそれ以外の台詞回しも、どこか抑揚が抑えられてて、そのあたりからも、言葉で語られない、あるいは言葉を介さない、別様の伝達というテーマがせり上がってきます。
でも、それだけでは映画にならないということなのか、登場人物たちの関係性の変化を導くためか、原作にはない、ある「事件」がもちあがり、全体が急展開します。この一連の流れは、脚本的に是非の問われるところかな、という気がしますが、どこか力業的にまとめあげているところは見事かもしれません……3時間は長いですけどね。
余談ですが、村上春樹原作の映画化として、衝撃的だったのはやはりイ・チャンドン監督の『バーニング』(2018)ですね。原作は『納屋を焼く』。個人的に好きな短編だったのですが、映画の翻案にはびっくりしました。良くも悪くも、長く尾を引く感じの余韻が残ります。