プランBの重要性
春にアニメ版の平家物語を観てからというもの、遅ればせながら、日本の「中世」についても知見を深めたいと思うようになりました。そんなわけで、とりあえず網野善彦『日本社会の歴史—(中)』(岩波新書、1997)などに目を通しました。これ、俯瞰的・総覧的な視点に立った教科書という感じで、どこか懐かしいような感じもしました(笑)。平安から鎌倉への時代的な変化に、農本主義から重商主義への社会の変化を見て取るところが、個人的には刺さりましたね。
で、そんな折、これまたwowowで放映していた、野村萬斎演出の『子午線の祀り』(世田谷パブリックシアター、2021)を観ました。おお、個人的にはタイムリーです。平家物語の最後のほう、つまり壇ノ浦にいたる部分を作品化した、木下順二の戯曲です。平知盛を主人公に据えて、とはいえ地球的スパンの俯瞰的な視点を設定し、戦にいたる心理戦、さらには戦の現場での心理戦をたくみに描き出しています。台詞回しもよく、とても楽しめました。
とても面白いのが、好戦的に盛り上がる知盛に対して、いざというときのためにプランBを準備するよう忠告する阿波民部重能(成良)。ここでは単なる裏切り者というよりも、ある種の知恵者として描かれている感じです。でも、結局知盛はそんなプランBを意に介さず、ひたすら戦へと、あるいは敗北へと突っ走ってしまいます。このあたり、一度突っ走ったら失敗しようともひた走るという、戦中からの悪しき組織的心性を投影している感じで、ちょっと複雑な気分になりました。そうした問題は本当に再考が必要ですね。