驚きの「学士論文」
ウンベルト・エーコの『中世の美学——トマス・アクィナスの美の思想』(和田忠彦監訳、慶應義塾大学出版会、2022)を、ざっとですが読んでみました。なんとこれ、エーコの学士論文(!)なんだとか。要するに卒論です。20代前半でこれほどのものを書いているとは、改めて驚かされます。
中身は、基本的にトマスのテキストから美や芸術などへのコメントを拾い上げ、美学のような体系化をなしていたかどうかを検証していくというもの。読みやすいわけではないトマスの著作に向き合い、そうした箇所を丹念に走査していくエーコのひたむきさが浮かび上がります。トマスだけではありません。関連する同時代、あるいはそれ以前の、中世を代表する神学者・哲学者の数々にも詳細に目配せし、結果的にこれはトマスのみというよりも、中世思想のなかの美学的スタンスを広くまとめ上げたものになっています。
この邦訳もまた、今年の秋の貴重な収穫として記憶に残りそうですね。